岩 倉 使 節 団 |
誇り高き明治の日本人
岩倉外交使節団
右大臣岩倉具視を特命全権大使とし、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文、山口尚房を副使とする岩倉使節団一行が欧米諸国視察のために日本を発ったのは明治4年
11月12日(陽暦12月23日)のことでした。同年の7月には廃藩置県が断行されています。 日本に前例のない国家体制が敷かれようとしているときです。なにを、どうすればよいのか――。国の指導者たちは暗中模索の中で西欧列強による植民地化を阻止し、日本の独立を確固たるものにしなければなりませんでした。 岩倉、木戸、大久保といった政府の最高首脳がそろって海外に出かけるというのは、そうとうに勇気の要ることだったでしょう。しかも、当初10箇月程度だった予定が、実際には大幅に延びて最後に残った岩倉大使が帰国するまで、実に1年10箇月にもおよんだのです。しかし、日本史において、維新初期の岩倉使節団米欧回覧の意義は極めて大きかったと言えるのではないでしょうか。 最初の訪問国米国で使節団は大歓迎を受け、グランドホテル(サンフランシスコ)での晩餐会では伊藤博文が次のようなスピーチを英語で行っています。 「今日、わが日本の政府および国民の熱望していることは、欧米文明の最高点に達することであります。この目的のためにわが国ではすでに陸海軍、学校、教育の制度について欧米の方式を採用しており、貿易についてもとみに盛んになり、文明の知識はとうとうと流入しつつあります。しかも、わが国における進歩は物質文明だけではありません。国民の精神進歩はさらに著しいものがあります。数百年来の封建制度は、一個の弾丸も放たれず、一滴の血も流されず、一年のうちに撤廃されました。 このような大改革を、世界の歴史において、いずれの国が戦争なくして成し遂げたでありましょうか。この驚くべき成果は、わが政府と国民の一致協力によって成就されたものであり、この一事をみても、わが国の精神的進歩が物質的進歩を凌駕するものであることがおわかりでしょう」 同年に実施された廃藩置県について、伊藤はこのように説明し、さらに論じます。 「わが国旗にある赤いマルは、もはや帝国を封ずる封蝋のように見えることなく、いままさに洋上に昇らんとする太陽を象徴し、わが日本が欧米文明の中原に向けて躍進するしるしであります」 そのとき、万来の拍手がおこり、しばらく鳴り止まなかったそうです。実に格調高く、堂々としたスピーチではありませんか。未開の小さな島国を代表する卑屈さなど微塵も感じられません。封建制を廃止しても、武士道の精神は使節団一行の心意気に反映されていたといえましょう。 それでは、ここで使節団の主なメンバーをご紹介いたします。 |
使節団職名 | 氏 名(年齢) | 官 名 | 出身 |
特命全権大使 同 副使 同 副使 同 副使 同 副使 一等書記官 一等書記官 一等書記官 二等書記官 二等書記官 二等書記官 二等書記官 三等書記官 四等書記官 四等書記官 大使随行 大使随行 大使随行 大使随行 大使随行 理事官 理事官 理事官 理事官 理事官 理事官 |
岩倉具視(47) 木戸孝允(39) 大久保利通(42) 伊藤博文(31) 山口尚芳(33) 田辺太一(41) 何 礼之(32) 福地源一郎(31) 渡辺洪基(25) 小松済治(25) 林董三郎(22) 長野桂次郎(29) 川路簡堂(28) 安藤太郎(26) 池田政 (24) 中山信彬(30) 五辻安仲(27) 野村 靖(30) 内海忠勝(29) 久米邦武(33) 田中光顕(29) 東久世通禧(39) 山田顕義(28) 田中不二麿(27) 肥田為良(42) 佐々木高行(42) |
右大臣 参議 大蔵卿 工部大輔 外務少輔 外務少丞 外務省六等出仕 大蔵省一等書記 外務少記 外務省七等出仕 外務省七等出仕 外務省七等出仕 外務省七等出仕 外務大録 文部大助教 兵庫県知事 式部助 外務大記 神奈川県大参事 権少外史 戸籍頭 侍従長 陸軍少将 文部大丞 造船頭 司法大輔 |
公家 長州 薩摩 長州 肥前 幕臣 幕臣 幕臣 福井 和歌山 幕臣 幕臣 幕臣 幕臣 肥前 肥前 公家 長州 長州 肥前 土佐 公家 長州 尾張 幕臣 土佐 |
ついでに五人の女子留学生の氏名などを付記します。
留学国名 | 氏名(年齢) | 出身 | その後の経歴 |
米 国 |
吉益阿亮(15) |
東京 |
京橋南鍋町女子英学教授所設立 |
米 国 | 永井繁(9) | 静岡 | 海軍大将瓜生外吉夫人 東京女子師範学校教授 |
米 国 | 津田梅子(8) | 東京 | 華族女学校教授 女子英学塾(後の津田塾大学)設立 |
米 国 | 山川捨松(12) | 会津 | 陸軍元帥大山巌夫人、女子英学塾顧問 日赤篤志看護婦人会理事 |
米 国 |
上田悌(16) |
医師桂川甫純妻 |
参考文献
堂々たる日本人 − 知られざる岩倉使節団 (泉三郎)
新米欧回覧 − 岩倉使節団の旅を追う (古河薫)
明治維新と西洋文明 − 岩倉使節団は何を見たか(田中彰)
岩倉使節団 『米欧回覧実記』 (田中彰)
特命全権大使「米欧回覧実記1〜5」 (久米邦武偏 岩波文庫)他