世の中は 桜も月もなみだかな
一草も 月日のむらはなかりけり
山里の 秋は別なり水の音
あまだれの 音のつれなき秋の暮
吹く風の 姿なりけり野辺の秋
* * * * *
浮ぶ葉も 流れとまらぬ河の瀬に
月影ばかり すみ残りけり
友と見る 軒はの山も月のすむ
今宵ばかりは にげよぞと思う
故郷の 音づれのみをまつ宵は
雁一声と なつかしきかな
いくたびも 人に逢いつつ別れつつ
別るる時は 今日も昔も
おく露も 夜の間の夢と消えはてて
風のあとのみ 見ゆる夏草
故郷に 見し世の友を数ふれば
花にもけふは ぬるる袖かな
やじりもて 記せる君が言の葉は
身を貫きて かなしかりけり
都都逸
うめと桜と一時に咲きし
さきし花中のその苦労
(薩長同盟をうたったもの。梅は長州、さくらは薩摩)
さつきやみ あやめわかたぬ 浮世の中に
なくは私とほととぎす
(「禁門の変」後、京都潜伏中の作)
調子揃わぬいとすじの きのふ二上りけふ三下り
ほそひ世渡り日渡りも そこでなぶられ ここではせかれ
ぬしのこころに誠があらば つらいつとめもいとやせぬ
(京都縄手のお茶屋「魚品」で遊んだ折の作)
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