木戸孝允に捧げる詩


君は英雄でなくていい



木戸孝允よ
君は英雄でなくていい
万軍を率いる戦場の勇者でなくていい
群集の歓呼にこたえる凱旋将軍
兵士らが仰ぎ見る軍神でなくていい


君よ
輝く太陽であるよりも
むしろ 月であれ
漆黒の夜を照らす
ほのかな月光であれ


人が苦境にあるとき
前路の指針を失ったとき
しずかに足元を照らす
やさしい光であれ
明日の希望を信じる者の
穏やかな支えであれ


なぜなら 君は
いつもそうだったから


斎藤弥九郎が 吉田松陰が
周布政之助が 高杉晋作が
毛利親子が 村田蔵六が
大久保利通が そして
明治天皇が
みな 君とともにあることを望み
君がそばにいるだけで
なぜかしら 安らいだのだから


理想を高く掲げながら
胸に燃える熱き炎を
理性の湖でしずめ
抑制と忍従のうちに
たび重なる挫折を味わったとしても
それは激動の時代に生を得た者の宿命


君が君であることに変わりはない
いつも どんなときでも
すべての者を受け容れる用意をもって
柔らかに周囲を照らす
君は 青い月光


ときには誰にも気づかれることのない
透明の かけがえのない
一条の光


君は そこにいるだけでいい
ただそれだけで 人の心を
癒すのだから



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